TENからのメッセージ。

 

いつもの暮らしが戻るぞと、お国が終わりを告げるらしい今日。この日を選んだTENは、私に何を語るだろう。 

 

最後にクラスをした頃には、まだうすらピンクが残っていた桜並木も、気がつけば鮮やかなもえぎ色になっていました。 

「桜はまた来年咲く!」と言われても、きっと今年の桜でなければいけなかった人もいたはずで、私もそのうちの一人となってしまいました。 

 

今朝、父のポートレートにする写真を探していた時、大切な一枚が出てきました。

 

2012年の春。

35歳だった私は、まだこのスタジオを持つ前で、少しだけヨガの指導をする傍ら、父が経営する小さな会社で手伝いをしていました。 

当時その業界は、大手が海外に次々と拠点を移し、国内の町工場では受注がまばら。毎月の半分を暇で過ごすなんてザラだったので、お金もない、結婚のアテもない独身女としては、別の生き方を探さなければいけないと、焦りと憂鬱で120%満たされていました。 

 

「今日も休み!」

 

空元気の父からいつもの知らせを聞いた母が、毎日家にいてもしょうがないからと「桜を観に行こうよ!」と私に提案してきました。断る理由が見当たらないほど絶好のお花見日和だったので、大して興味はないであろう父も誘い、電車に乗って千鳥ヶ淵に向かいました。 

 

北の丸公園から見下ろす満開の桜の景色は、お濠に転々と浮かぶボートに乗った恋人たちが穏やかな春の象徴ともなり、パーフェクトな絵図ら。父も気分が上がり始めたのか、ボート乗り場を指差して「乗るか!」と、まさかの提案をしてきたのでした。 

 

え、マジ? 

 

ちょっと面白そう。という思いとは裏腹に、この歳になって親子3人でボートに乗るって、アリなのか。

 

行列の割にはサクサクと順番がやってきて、いざ我が家の番。ボートに飛び乗るのにうろたえる初老の二人が、行列の流れを明らかに乱していたので、後ろに並んだ恋人たちに頭を下げてから私も飛び乗り、どう見ても他のボートとは違った幸せのカタチがひとつ、ダークグリーンのお濠に浮かびました。  

 

35歳独身女、初老の親とボートに乗る。恥ずかしいかも〜。

 

極力ひと気がまばらの田安門の橋桁に向かって父にボートを漕がせ、桜がつくった屋根の下を通り抜けていく。美しかった。

でも私はそれよりも「どうか、どうかこの姿、知っている人には見られませんように...>.<」と、この時間がさっさと過ぎ去ることばかりを願っていた記憶の方が、今も鮮明に残っているのです。 

暇だし、仕事もないし、将来が不安だった。でもいま思えば、家族にとっては一番いい時期だったかもしれない。

  

 

この自粛期間、家族の時間を後回しにし最前線でウィルスと戦ってくれた方々がたくさんいてくれるから、不謹慎で言葉にしずらいけれど、

たっぷりと与えられた #おうち時間 の中で、大切な家族との時間で満たされた人たちがきっと多くいて、この先、もとの暮らしに戻すというよりも、新しい生活様式や働き方へと見直そうとする人もきっと多い。こんなゆっくりな時間も、大事じゃないかなと。

 

私自身あの時と同じ、暇だし、仕事もないし、将来が不安だから、この事態が早く過ぎ去ってほしいと思う一方で、大切にすべきこともたくさん見つけることができるありがたい時間でした。でも気づくのが少し遅かった。

この時間をもっと早くにシェアできなかった後悔をTENに向かって詫びながら、なんて返事をしてくれるかと耳を澄ませる。

 

みなさまも、この期間で気づいたこと、見つけた暮らし方を、どうぞ大切になさって、新しいライフスタイルを迎えていただけたらと。

 

私はもう、前を向くだけとなったので、今週末オンラインクラスをやろうかなと思います。